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福岡高等裁判所 昭和56年(ネ)629号 判決 1984年4月26日

控訴人 許斐憲生

右訴訟代理人弁護士 登野城安俊

右訴訟復代理人弁護士 津田聰夫

控訴人 奥永進

右訴訟代理人弁護士 登野城安俊

同 津田聰夫

被控訴人 福岡県信用保証協会

右代表者理事 小田部善次郎

右訴訟代理人弁護士 広瀬達男

主文

一  原判決主文第一項中控訴人奥永進に関する部分を次のとおり変更する。

控訴人奥永進は、被控訴人に対して二二一一万円を支払え。

被控訴人のその余の請求を棄却する。

二  控訴人許斐憲生の控訴を棄却する。

三  訴訟費用中、被控訴人と控訴人奥永進間に生じた部分は第一、二審を通じ三分し、その二を同控訴人の、その余を被控訴人の負担とし、控訴人許斐憲生の控訴費用は同控訴人の負担とする。

四  この判決の主文第一項の金員支払部分は仮に執行することができる。

事実

控訴人らは、「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を、被控訴人は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人らの負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠関係は、次に付加、訂正する外は、原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。

一  原判決五枚目裏末行の次行に次のとおり加え、六枚目表一行目冒頭の「1」を「2」に、同九行目冒頭の「2」を「3」に改める。「1 控訴人らは江口護の本件信用保証委託契約について本件連帯保証をする際、その主債務につき充分の物的担保が存在し、且つ被控訴人の担保保存義務免除の特約などないものと信じて連帯保証をしたものである。従って、仮に五の1記載の特約が存在したとすれば、右連帯保証契約は要素に錯誤があったことになるので、右連帯保証契約自体が無効である。」

二  同六枚目表八行目の「信義則に反する。」を「信義則に反し権利の濫用である。」と改める。

三  同六枚目表八行目の次行に次のとおり加える。

「そして、被控訴人が、江口護の担保差替えの申出により当初の担保物件の抵当権設定契約を解約し、控訴人許斐所有の山林に抵当権を設定したことにより、当初の担保物件は求償債務を充分賄うことができたのに、右差替え物件は被控訴人がその後競売に付したが、競落人がないため、最低競売価格が八五八万八〇〇〇円に逓減された段階で遂に競売申立は取下げられた。

したがって、差替え物件は右以上の価格ではあり得ず、控訴人らは本訴請求中右価格を超える部分につき免責される。」

四  同六枚目裏九行目の次行に次のとおり加える。

「仮に被控訴人の担保の差替えが信義則に違反するとしても、被控訴人は差替え物件につき競売を申立てたものの未だ競落まで進まないうちに右申立てを取下げたままになっており、従って仮に控訴人らが民法五〇四条により免責を受け得るとしても免責額は確定できない。」

五  証拠《省略》

理由

当裁判所は、被控訴人の控訴人許斐に対する請求はすべて認容し、控訴人奥永に対する請求は主文第一項の限度において認容し、その余は棄却すべきものと認定判断するが、その理由は、次に付加、訂正する外は、原判決の理由説示と同一であるから、これを引用する。

一  原判決八枚目裏末行の「従って、」の次に「控訴人らが江口の債務を被控訴人に弁済したときには、民法五〇〇条により被控訴人に代位する地位にあったものであるから、」を加える。

二  《証拠訂正省略》

三  《証拠付加・訂正省略》

四  同一〇枚目表一一行目以降を次のとおり改める。

「九 再々抗弁1について

控訴人らの本件連帯保証契約には要素の錯誤があって無効であるとの主張は、前記引用認定のとおり控訴人らが被控訴人の担保保存義務の免除の特約をしたと認められる以上、理由がない。

一〇 再々抗弁2、3について

債権者の担保保存義務を免除する特約があっても、連帯保証人が物的担保があることが動機となって連帯保証したような場合にあっては、債権者が故意又は重大な過失により担保を喪失し、又は担保の価値を減少させたような場合には、債権者は、信義則上、前記特約の効果を主張することはできないものと解するのが相当である。

本件についてこれをみるに、《証拠省略》を総合すると、次の事実を認めることができる。

控訴人奥永は、江口護から、被控訴人との間の本件保証委託契約については不動産を担保に供していて迷惑はかけないから連帯保証してくれと持ちかけられ、右不動産(前記字西尾の山林)を見分して充分の担保価値があるものと信じて連帯保証することを承諾した。右山林は後に江口が約四〇〇〇万円を投じて宅地として造成し一億一〇〇〇万円で他に売却したものであり、したがって客観的にも充分担保価値のあるものであった。被控訴人の担当者である林彪は、保証委託契約後の昭和五一年九月二〇日ごろ、江口から担保に供している右山林は造成したので売却し、代金を被控訴人から保証を受けている銀行からの借受債務の弁済に充当したいから、根抵当権設定登記を抹消してもらいたいとの要請を受けるや、代替の担保を供することを条件にこれを承諾し、前記控訴人許斐所有の字山の田の山林四筆を代替に供する旨申出たので、現地を見分し、銀行にその評価額を尋ね、付近の分譲地の地価を考慮に入れて八七七八万六〇〇〇円と評価し、(因みに差替え前の字西尾の山林の評価額は九四二一万円であった。)担保の差替えに応じたが、右差替えについては控訴人奥永の承諾を得ていない。ところが、江口は右字西尾の山林の売却代金は前記銀行からの借受債務の弁済にではなく、他の債務の弁済に充て、同年一二月下旬には倒産状態になって行方をくらました。被控訴人は、右山林の売却代金の支払先につき全く関心を示さなかったが、その後福岡地方裁判所直方支部に右山の田の山林の競売を申立て、最低競売価額を二二一一万円と評価されて手続が進んだが、競落人がないため最低競売価額は八五八万八〇〇〇円まで逓減され、それでも競落人がないため、被控訴人において競売申立を取下げたまま現在に至っている。

以上の認定に徴すれば、被控訴人は江口から担保の差替えの要請を受け、代替担保物件を、客観的価格の四倍もの評価をするという粗雑な評価しかしないまま、右評価額が被担保債権額を超えるということのみで、右江口の要請を安易に承認したものであって、右のような場合担保保存義務につき重大な過失があったものとみるのが相当であり、したがって担保保存義務免除の特約があったとしても、連帯保証人として弁済すべき立場にある控訴人奥永は右担保差替えによって江口又は他の保証人である控訴人許斐から償還を受けることができなくなる限度において免責されるものというべきである。

そして、右の差替え後の担保物件の所有者は控訴人許斐であり、控訴人奥永は控訴人許斐に対しては被控訴人に対する債務弁済額の二分の一を求償し得るに止まるものであるから、控訴人奥永は右二分の一又は右の差替え後の担保物件の価額の低額の方以上の債務額については責を免れるものというべきところ、控訴人奥永の被控訴人に対する現在の元利債務金額と右担保物件の相当価額であると認められる前記最低競売価額とは後者の方が低額であることが明らかであるので、控訴人奥永は後者の価額以上の債務額についてはその責を免れるものというべきである。

なお、控訴人許斐は担保差替えを承諾していたこと前記のとおりであるから、同控訴人の再々抗弁2、3は失当である。」

してみると、控訴人許斐関係では被控訴人の請求を全部認容した原判決は相当であって、同控訴人の控訴は棄却すべきであり、控訴人奥永は被控訴人に対して二二一一万円を支払う義務があり、一部これと異る原判決は変更すべく、民訴法九五条、九六条、八九条、九二条、一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 矢頭直哉 裁判官 諸江田鶴雄 日高千之)

<以下省略>

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